一昨日から昨日にかけて、なんとか前蛹（ぜんよう）になることができたナミアゲハの幼虫。ちゃんと蛹になれるのか、死んだりしないのか、心配でいたけど、見るたびにピクッと動く動作をみせるし、幼虫からはなんともいえない生気みたいなものを感じるから、徐々に安心して見守れるようになった。

そして昨日、孵化から15日目の6月10日の夜7時をまわったころ、体の色に大きな変化が表れた。

前蛹になってから約16時間後のこと。

前蛹の頃は、幼虫だった時の緑色を少し濃くしたような色合いだった。

それが昨日の7時ごろには、全体的に白みが差してきて、濁ったようなアーミー系の色合いになった。

こうなるのは、本当に突然のこと。それまでは上の緑色だったのが、急にこの濁ったような色になる。数分か、30分もしない間の素早い変化。

これは蛹になるのは近いと分かり、観察を続けた。

時間が経つにつれ、前蛹のクビレがはっきりするようになってきて、お尻の方から頭へかけて波打つ動きを見せる回数が増えてくる。

波打つ動きをする時に、前蛹の体をじっくり見てみると、皮と内部が別の動きをしているように見える。たぶん、皮と内部はこうやって徐々に分離していってるんだと思う。

耳をすますと、とても小さい音で『パキッ』という乾いた破裂音も聞こえる。

内部で剥がれてる、そんな感じがヒシヒシと伝わってくる。

前蛹の色の変化に気づいてから約1時間が経過する頃、波打つ動きが連続で続くようになり、同時に、前蛹の頭頂部あたりの色が渋くやや薄い感じのエメラルドグリーンに変わり、サイのツノのような突起が現れ始める。

脱皮が始まった！

僕はてっきり、頭頂部から縦にパカッと割れて這い出るように脱皮するのかと思っていたんだけど、実際は違った。

皮が脱げていっているのが分からないほど、まるで色や形が自然に変化していくかのように進行していく。

以下、脱皮が進んでいくところの写真を並べる。

下まで皮が脱げたところで、最後のお尻が出てこない。激しく体をよじり始め、落っこちそうになったので、帯糸の代わりにしている刺繍糸の遊びの部分を軽く体に巻きつけて支えた。

蛹の体に何らかの障害が出たら大変だから、素早くだけどとても気を遣いながら一回だけ巻いた。フワッと柔らかく、蛹の体に触れる程度の巻きつけで、十分蛹の体を支えられる。

激しい身もだえに、完全に横になってしまった。

その動きの甲斐あって、お尻の部分も脱皮できた。

出来たのはいいけど、支柱から完全に体が離れてしまっている状態。

そう、これ、ずっと疑問に思っていたことだった。

脱皮して蛹になった時、支柱にくっついている部分は古い皮なんだから、それを脱いでしまうということは、お尻が支柱から離れるということになる。だけど、図鑑なんかで目にする蛹は、ちゃんとお尻がくっついていて帯糸によりかかっている。

なぜだ？そして、このＡはどうするんだろう？

ずっとこんな疑問を持っていた。

だからまさにここからが見物。落っこちないように注意しつつも、僕の意識はそこに強く向いていた。

人工の帯糸に乗っかるだけの格好になりながらも、よじる動きを繰り返す。だけど、その動きを見ていたら、やみくもに動いているわけじゃないことがすぐに分かった。

お尻の動きが独特。ちゃんと目的を持ってお尻を動かしている。支柱にくっついたままになっている脱皮した古い皮を、お尻でどかそうとする。正確に、皮と支柱の接着点めがけて、お尻を何度も何度もぶつけて皮を押すように支柱からひっぺがそうとする。

まるでお尻に目があって、古い皮の位置が見えているかのような動きをする。

そのうちポロッと古い皮が下に落ちる。

落ちたらすかさず、今まで皮がくっついていた支柱の部分に、自分のお尻をあてがって新たにくっつけた。

おお！！

いままで不器用で何度か命の危機に直面してきたＡが、素早くスムーズにお尻の再接着をやってのけた！感激。

蛹が脱皮の途中に落っこちても大丈夫なように、真下に敷いておいた布の上に、脱ぎ捨てられたばかりの皮が落ちる。

お尻がくっついて脱皮を終えたＡは、自然と前蛹だったころの縦向きの体勢に戻って落ちついた。

今の今までしていた激しい動きがウソのように落ち着いている。

無事に前蛹から蛹になった。

エメラルドグリーンの蛹。脱皮してすぐの頃は、まだ前かがみな姿勢のなごりがあり、柔らかい感じがある。お腹から頭頂部にかけてはエメラルドグリーンで、背中からお尻にかけては白みがかっている。

胸元をよくみると、蛹の凹凸で触覚になる部分があることもよく分かる。

さて、ここで蛹化の変態が止まるわけじゃなく、ここからもう少し急激な変化がある。

体が徐々に膨らんできて肉厚感が出てくるのと同時に、背中が反ってきて、いわゆるよく見かける『蝶の蛹』の格好になる。

ここまでが前蛹から蛹へ変化する際の、特に急激な変化の様子。

ここからは、数時間掛けて、茶褐色に変化する。

2時間後には、色の変化がはっきりと分かるほどになる。

この日の観察はここまで。

蛹の身長は約26mm。

前蛹の体に色の変化が表れてから、蛹の頭頂部が見え始めるまで、

約1時間。

脱皮が始まってから、お尻が再接着するまで、

約10分。

猫背から鳩胸になり、体がふっくらと膨らむまで、

約20分。

脱皮の兆候が見え始めてから、脱皮が完了するまで、約90分。観察していると、とても短く感じる90分。

その後、脱皮が終わってから、体の色合いが茶褐色へと変わり始めたことに、見て分かるほどになるまでは約1,2時間程度。しっかりと茶色に変わるまでは数時間を要する。

翌朝、つまり今朝見たら、完全に茶色に変わっていた。脱皮から約10時間後のこと。

あとは害虫に襲われないように願いつつ、踏み潰すとか人的事故も起こさないように注意しつつ、部屋の中で羽化まで見守る。

孵化から16日目

終齢幼虫から前蛹へ

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おまけ。

脱皮する直前、体が激しく波打ち運動を繰り返すようになる頃、耳を近づけてみると、『パキッ　パキパキ　パキョ　パキッ』という乾いた音が聞こえる。

内部で古い皮と体が離れ始めているかのような音。

その音を聞いていて、小さい体から発せられる凄まじい活力を感じられて、とても嬉しくワクワクした。

おまけ２。

前蛹の皮。頭や前足の部分が特によくわかる。

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