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通信カラオケのMIDIデータ制作の仕事

 
2012-02-04 23:57 Good(303) Comments(0)
in Music - 音楽
カーツウェル K1200 - Kurzweil K1200 Professional

音楽に関する仕事って演奏、作曲、編曲、指導、選曲等沢山あって、その中の一つに、通信カラオケの音楽データ(MIDIデータ/ミディデータ)を作るというものがある。

日本の街中でよく見かけるカラオケボックスで使われているもので、この業界とは無縁の人の中には原曲がそのまま流れていると思っている人もいるかもしれないけど、あれは原曲を使っているんじゃなくて、原曲に似せて作ってある音楽データを使っている。

僕は以前そのデータ制作の仕事をやっていて、なんだか凄い不思議な仕事だなーと思っていた。

この仕事って、小さい頃からピアノの英才教育受けてましたとか、コンピュータ使って打ち込み音楽作ってましたとか、作曲できますとか、そういうスキルだけじゃ出来ない。

必要な能力は、何か楽器を演奏できること、音を聞き分ける耳、音色を判別する耳、聴いた音を覚える記憶力、よく出てくる楽器の仕組みや奏法の理解、MIDIデータ(デジタルデータ)の知識、使用音源の知識、安全なMIDIデータ制作の技術、ミックスの耳と技術と知識、楽曲分析の能力、音楽制作や音源制作の理解、、、、簡単にいうと、あれもこれもみーんな必要ってこと。

時間を掛けられるなら、音を聴き取れる程度の能力の人でも出来るけど、時間を掛けずにやるとなると、とんでもなくいろんな方面の能力を持ち合わせて居ないと出来ない。

これだけの能力を求められる仕事だから、さぞかし高額なギャラが発生していいはずなんだけど、僕がやってた10年ほど前でも末端で請け負って1曲の制作のギャラが3万程度だった。

でも、もっと前、カラオケブームの頃か、僕より一回り前の人たちは、1曲6万とか7万とかで普通にやっていたと聞いた。これなら技術に対する正当な評価と思えるけど、3万程度じゃなぁ・・・(笑)。

こんな感じでどんどん単価が下がっている仕事だから、今はいったいどうなっていることやら。ギャラが安すぎて日本国内じゃ制作者が見つからず、中国に発注っていう、、、昨今のありがちな産業の流れになってるかもしれない。


さて、1曲作るのにどれぐらいの日数が掛かるかというと、簡単な曲だと2時間ぐらい、ボリューム満点な曲だと1日の作業時間が4,5時間で3日ぐらいだから、平均すれば2日。だからどんなにボリューム満点な曲でも4日以上掛けていたら仕事として成立しなくなってくる。

例えば、同じフレーズの繰り返しが多いヒップホップとかラップものなんていうのは、本当にあっという間に終わる。2時間以内に終わらせれば時給1.5万円ぐらいになるから、その曲が輝いて見える(笑)。

普通に楽なのは、フォーリズム主体のジャパニーズポップス。特に僕はギター奏者だから、ギターに触ることもなく、埋もれて聴こえない音まで分かってそのまま鍵盤で打ち込んでいけるので、本当に楽だった。

時間がかかるのは、演歌みたいな繰り返しが少ない生演奏主体で大所帯のものとか、オーケストレーション交じりの壮大なアレンジで繰り返しの少ないポップスとか、小編成でも一つの楽器の演奏の絶妙さを前面に押し出しているようなものだと、再現に時間が掛かって3日目に突入してしまうから、10時間以上掛かってしまうことがある。

そこでいかに時間を掛けずに完成させるかが重要になってくる。

そのために必要な能力の一つが、音を覚える力。僕のやり方だと、1パートずつ4小節なり8小節なり区切って、一回聴いて覚えて打ち込む(データ化していく)、これの繰り返し。何度も聴きなおす行為、これが一番時間を食うから、やってはいけない。何回も聴いていると飽きてきて疲れるっていうのもある。

あとは、音色の再現に試行錯誤しない。原曲のこの音を再現するには、手元の音源のあの音をこういじれば出来る、ということが瞬時にイメージできないと、また時間が掛かる。特に効果音の再現には経験がものをいうけど、何の音だったか忘れたけど、過去一度だけどうにも無理なものがあった。その時は拳銃の発砲音を入れておいた。お手上げさーっていう意思表示(笑)。

あとは、MIDIデータを作成するのに使うシーケンスソフトを使いこなすこと。当時でも専門的なソフトウェアは本当に多機能で優秀だったから、機能を理解して上手に使うと大幅な時間削減が出来る。僕はデータ制作の時はLogicを使っていて、ソフト内の配線をいじってフィルターを組み立てて使ったり、トランスフォーマーを活用すると、面倒な作業もすんなり終わる。本当にLogic様々だった。というように、音楽的な能力以外にも、ソフトウェアを使いこなす能力も必要になってくる。

他にもいろいろあって、クオリティは上げる方向で、ありとあらゆる作業の効率化を図って、時間的に安いギャラが見合う仕事にしていく。


この通信カラオケのMIDIデータ制作の仕事を始めたきっかけは、作編曲やレコーディングの仕事をやる中で、ぱっと暇になった時に手っ取り早く小金が稼げそうっていうのと、コピーする作業を通して楽曲制作の勉強が出来るっていう思いから。どうせ日々勉強はするわけだし。勉強できて金もらえるなんて、なんて素晴らしいことだと思った。

この仕事のメリットは、凄く楽曲制作力がつく上に、一月後にはやった分だけ(ほぼ)きっちり(ほぼ)確実にギャラを貰えること。

しれっとちょっとギャラ減らしてくる奴とか、自分から仕事下さいって来たのに途中でほっぽりだして逃げる奴とか、そういう腐った奴が普通にいる日本の音楽業界のなかでは、比較的安心感のある手堅い感じの仕事だった。

また、お客さんやディレクターの趣味やその日の気分で合格点の的が動く作曲や編曲の仕事とは違って、原曲っていうがっちりしたぶれない的があるから、制作の仕事の中では、僕が体験した中では一番簡単な仕事だった。

こう聞くとまあ良い仕事なんじゃないの?と思う人もいるかもしれない。けど、他の人にこの仕事を仕事としてやってごらんよとは決して勧められない。なぜなら、デメリットの方がデカいから。

まず、データの出来をチェックする検品者が自分より耳が悪いと奇々怪々なリテイク(修正指示)を突きつけられること。

例えば、原曲で『ド』の音が鳴っていても、検品者が『シ』と言えば、それは『シ』の音に直さなきゃいけない。

例えば、クリーンギターが鳴っていても、検品者が『それはピアノです』と言えば、ピアノにしなきゃいけない。

カビの生えた腐ったケーキを、『それは作りたてだから食べなさい。(本気で作りたてだと思っている)』と言われたら食べなきゃいけない。そんな気分。自分の落ち度による修正指示なら勿論全く問題ない。ごめんなさーい!と言って速攻で手直しして送り返すけど、そうじゃないケースが度々あった。

そして、そういうのを諸々我慢して制作する割に、物を作ったという達成感が全く無い。僕の中ではこれは大きい。嬉しさ、喜び、楽しさ、こういった物が無いっていうのはよくあるし仕事だからと割り切れることだけど、達成感すら無いっていうのは寂しい。そして答えが複数あるもので、『こういう正解もあるから、今回はこっちにして』とか『大勢の利益のために、間違ってるけど今回はこうして』っていう理由ある修正なら無茶苦茶でも全然OKだけど、単純に検品者の能力不足のために、答えが一つしかないもので合ってるのに間違ってると言われて問答無用で捻じ曲げられる、これは本当にどっと疲れが出て精神的にやられる。テンション下がってしまう。

殆ど一発OKで通してた僕でも、たまーにくるこういう検品者の勘違いによるリテイクが、月日を重ねるごとにポツポツと溜まっていってジワジワ蝕まれる。だから、一日にあてる作業時間も4,5時間程度にとどめておいて、後の16時間は他の音楽制作にあてる。そして3時間は睡眠に、って具合で1日が終わる。でも、それでもダメだった。辟易した。せめて達成感だけでもあればまだ良かったかもしれない。

更に、人脈が広がりにくいし、繋がっていかない。スタジオにこもってコツコツやる仕事で、打ち合わせなんてものは必要ないし、原曲と出来たデータをネット経由でやり取りするだけ。

作編曲の仕事だと、お客さんと会ったり、プロデューサーやディレクターの出入りがあったりと、なんだかんだと人と会うけど、このデータ制作の仕事ばっかりは、まず誰とも会わない。たまに原曲をCDで手渡しなんてことがあればまだいい方。

人と会わないっていうのは、後々ジワジワ響いてくるから結構デカいマイナス面。


多岐にわたるスキルを必要とされ、ハイクオリティを求められ、検品者の勘違いによるリテイクで蝕まれ、テンション的に他の仕事にまで影響する事もあり、人脈も出来にくく、ギャラは安い。

不思議な仕事だなー

と思った。そして最初は勉強になる上に金を貰えるなんて喜んでいたけど、勉強するなら時間と金を費やして勉強した方が気持ちが良いと分かったし、僕に『1曲6,7万貰ってた頃はまだよかったけど、あれは精神的にやられるからやめた』と言っていた人の気持ちも身をもってわかった。ただ、これがこの仕事の現実だから、どうしようもない。不思議に感じた時がやめ時だ。

通信カラオケのデータ制作だけでなく、携帯の着メロ制作もそうだけど、原曲をコピーする系のデータ制作は精神的にやられるから、社会勉強の一環としてや、学生のうちに勉強のつもりでちょっとやってみる程度にしておくのがいいかもしれない。


さて、んで、最近のカラオケはどうなんだろう????ここまで長々とカラオケ制作について書いているんだけど、実は僕、10代の頃に行ったきりカラオケに行ったことがない。20代になってからなんて、何かの機会に1回行ったか?行ってないか?思い出せないぐらい。だから、最近のカラオケボックス事情を全く知らない。自分で作った曲だって、現場では一曲も一回も聴いた事が無い。カラオケボックスって、音悪いし耳壊しそうだから行きたくないんだ。

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