ブラジルのバイーアで暮らしていたころ、よく見かけていた鳥がいる。それはベジャフローという名前の鳥。日本ではハチドリという呼び名で知られている。

ブラジルポルトガル語では Beija Flor と表記する。意味は『花にキス』。ベジャフローが食事をする光景から、こう名づけられたのだと思う。お洒落で可愛い名前。

とても小さい体で高速で飛び回り、花の蜜をなめる時は、超高速で羽ばたいて空中で静止しているかのような状態になる。まるで花に口づけしているかのよう格好になる。

昔はどこか遠い土地にいる神秘的な鳥だという漠然とした印象を持っていたんだけど、それがバイーアだと普通に飛んでいるし、手の届く範囲に小さな巣もあるから何だか笑える。

民家や空き地にある木々、ピンク色の花が咲く木にベジャフローたちが群がっている。しかし大抵は木の枝葉の内側に居るから、外からだとその姿を見ることはできない。

ただただ木の枝葉がザワザワ揺れていると、ベジャフローが沢山いるということが分かる。それがまた何だか楽しい。

つい先日、東京の多摩動物公園にある、昆虫園という熱帯植物や虫をあつめた区画で、ハチドリを見る事が出来て懐かしかった。バイーアで見た以来だ。

一目見た瞬間に感じたのは懐かしさだけじゃない。飛ぶスピードが遅いと感じた。

園内に居るハチドリはチャムネエメラルドハチドリという種類で、僕がブラジルで見かけたやつとは違うのかもしれない。飛ぶ速度が遅いのは、狭い園内で暮らしているからかもしれない。

ブラジルに居た時は、自然のベジャフローの素早さを間近で体感するチャンスがあった。

建物が無い一角の開けた空間に立っていたら、近くにあった大きな木からヒュンッと黒い物体が飛び出てきた。何かと思ったら、鳥だ。物凄い小さい鳥。小魚を横から見たようなシルエットが空中に浮いている。浮いているというか、空中で止まっている。変な感じ。

一箇所で3秒ほど静止し、10メートルぐらい一直線に移動して、また静止する。前後、左右、上下、広い自然の空間の中を縦横無尽にこれの繰り返し。これを僕のすぐ目の前、10メートルぐらいの所で何度も繰り返していた。

感激！

しばらくじっと見ていた。ベジャフローは速い。びっくりするぐらい速い。初速からいきなりトップスピードなんじゃないかっていうぐらいの飛び方をするから、まばたきをする間に別の場所に移動して静止しているような印象を受けるほど。

だから、目の前の光景が半ば夢のような、非現実的な物を見ている感覚がしてくる。

感激しながら見ているうちに、そのベジャフローはスッと消えていった。

自然と深い息と同時に『ぉお～・・・』という声が漏れていた。

Beija-Florなんて名前をつけるセンスがいい。ブラジル人はあだ名を付けるのが上手い。こういうところでもそれが活きている。

またブラジルでベジャフローを見たくなった。

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