ブラジルの北東部に位置するバイーア州。そこにサルバドールという町がある。町の一角は世界遺産にもなっている。

この町も例に漏れず低所得層が暮らす貧民街（ファベーラ{Favela}）と富裕層が暮らす区域がはっきりと分かれていて、それらが隣り合わせに沢山繋がって一つの町になっている。

そんな中でも、僕が住んでいた場所は低所得層寄りの町。だから周りは泥棒だらけ。強盗も当たり前にある。

だからって、皆が皆悪いことしてる訳じゃない。こんな子も居る。

ある日、近くの商店に買出しに行った帰り道でのこと。

買った食材（半分はビール(笑)）の袋を両手に持って歩いていた。そこに7,8歳ぐらいの男の子が一人近寄ってきた。

彼は制服を着ていて手提げバッグを持っていたから、学校が終わって下校の途中なんだと一目で分かった。

分かったんだけど、でもやっぱり警戒しちゃう。

だってここはバイーア。（サルバドールの事を敬愛を込めて州の名前であるバイーアとも呼ぶ）基本的にドス黒い空気が立ち込めている。

そんな僕にこう言ってきた。

『手伝います』

そう言いながら手を伸ばしてきた。

ズギューーーン！

と打たれた。僕の心にドンッときた。

僕は驚いた。彼は自分の荷物で片手がふさがっているし、大人の僕が持っている買い物袋はパンパンで重そうなことが一目で分かっているはずなのに、なんのためらいも無く自然にそう言ってきた。

日本でこんな状況を体験した事は無かったし、見かけたこともなかった。日本の子供だったらどうするかな？と思い浮かべた。自分たちと容姿が違う人間が居たら『ガイジンだー(笑)』と言って遠巻きにからかうかもしれない。他人を気遣うこともせず見知らぬ大人は無視と決め込んでいるかもしれない。親や学校の先生がそうしなさいと教育しているかもしれない。

ここ、特に僕が住んでいた周辺は低所得層が暮らす地域で、特に観光客に対して悪さする子供が多い。そんな状況の中だったから、本当に驚いた。と同時に、ホッとした安心感も持てた。

自然と笑顔になる。『大丈夫だよ。ありがとう。』と返した。

この場所から僕のアパートまではわずか100メートルほど。短い距離だったけど、それから彼ととても楽しい会話ができた。

ところ変わって、近所にあるアパートの人が一人通れるぐらいの狭い階段通路で、小学生がすれ違いざまに「こんにちは」と僕に声を掛けながら歩いていった。

勿論同時にこちらも『こんにちは』。

別の男の子。5,6歳ぐらい。本土のバイーアから少し離れたイタパリカ島(Ilha de Itaparica)で出会った。この島自体、ドス黒い空気感がなく、彼は本当に純粋な田舎の男の子という印象。

彼は海辺で海中の生物を漁って遊んでいた。

『何してるの？』

僕はそう声をかけて一緒に遊んだ。生き物の事を教えてもらった。言葉を教えてもらった。

例えば道端で、誰かがハプニングに遭ったとする。バッグを落としたとか、つまずいて転んだとか、そんなこと。そんなことでも、近くに居る人たちはサッと手を差し伸べて気遣い助ける。

基本的にキリスト教国である事が影響しているのかどうかは分からないけど、とにかく日常的によく人に手を貸す。人に声をかける。人を助ける。ちょっとした気遣いが溢れかえっている。

相手を気遣えば、自然と言葉が出てきてコミュニケーションがとれるようになる。相手と対面した時、自分がどういう態度をろとう？？？などと、自分を気遣ってばかりだと言葉は出てこない。出てくるのは儀礼化した定型文だけ。それがよく分かるところ。

声をかけないより、声をかけた方が気持ち良いと思うよ。

悪い部分も沢山あるが、バイーアはとても人が生きている町で、僕はとてもとても好き。

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