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翻訳って難しい

 
2014-07-26 15:45 Good(1) Comments(0)
in Languages - 言葉, Movies - 映画
アナと雪の女王 - Frozen
アナと雪の女王 - Frozen

翻訳の話。

最近「アナと雪の女王」を観て、翻訳って本当に難しい作業なんだなぁと感じた。

映画の内容におもいっきり触れてるから、まだ観ていない人は読まない方がいいよ。

違う言語の間では全く同じイメージを持ち合わせた言葉って無いから、その中から近いイメージのものを選択するのがいわゆる「訳す」という行為だけど、歌詞や物語となると抑揚や流れがあるし映像作品となると口の動きにも合った言葉選びをする必要があるからそれだけでは対応できなくなる。

この映画の中でも日本語吹き替え版では歌詞もセリフもかなりニュアンスが変えられている箇所があって、中には完全にオリジナルの演出の意図が崩壊してしまっているところもある。

特に、初見でも「ん?なんかおかしい…」って感じたのは、アナとクリストフが雪の怪物に追われて崖から飛び降りるシーン。

日本語吹き替え版では、「追われてアナがパニックになって崖から飛び降りる」というだけの演出になっているんだけど、それにしては何となく雑でぎこちないシーンに見えてしまうちょっと意味不明とも感じる箇所。

基本的に短い時間の中で矢継ぎ早に変化を盛り込んでくる作りになってるのに、このシーンだけ長い時間を掛けた割りに「何も言ってない」っていうテンポ感のズレが違和感の元。

でもここはオリジナルの英語版ではもっと複雑な描写がされていて、言葉遊びによるユーモアもある。たぶん、英語圏の劇場では笑いが巻き起こってるんじゃないかな?

英語版では、

怪物に追われながらも反撃して一泡吹かせてやったという高揚感の中、とんでもない高さの崖から飛び降りなければならない切羽詰った状況になるところでのやりとり。

クリストフ「【3(Three)】の合図で飛び降りるぞ!」

アナ「OK!いつでもどんとこーい!」(合図は【木(Tree)】だと勘違いしてる。高揚感の中で自分を鼓舞するような状況で人の話をちゃんと聞けていない上、確認をするゆとりも持てていない)

==怪物が投げた【木】が飛んでくる==

アナ「【木(Tree)】だ!(ピョーン)」

クリストフ「???!!!大丈夫か?ハプニングか?」(アナが【3(Three)】と自分でカウントして急に飛び出したことに何か問題が発生したと思ってる)


クリストフ、「会ったその日によく知らない男と婚約するような女は信用しない」と言っていたのに、合図を無視して先に飛び降りたアナを気遣うほどもうすっかりアナに対する警戒心はなく、これっぽっちも疑ってない心境の変化や素直な性格が描かれている。

アナは決めたらそれを一直線に実行するタイプ。何の疑いも無く打ち合わせた事を完璧に実行できたと思ってる。クリストフに心配されて意味が分かってない状況になる。アナのイっちゃってる性格もお茶目に映る。

イっちゃってるでしょ・・・・アナの性格は大分。だって姉の戴冠式に婚約報告するんだよ。友達の結婚式に新婦よりも派手なドレスを着ていくようなもんだよ。けっこうヤバイ・・・・。自分しか見えてないんだから。それが物語りの最後では他人を気遣って自分の欲を捨てて犠牲になれるんだから、凄まじい成長をしてるよ。

クリストフも分かってない、アナも分かってない。

お互い自分の行動にミスがあったなんてこれっぽっちも思ってないままで、空耳しあってることにも気づいてない。

・・・という協力しているのに今一噛み合っていないけど、それにも気づいていない間の抜けたやりとりを二人が命を掛けて真剣にやっているところがこのシーンの面白さを作っている。

日本語吹き替え版では、「アナが焦って先に飛び降りた」というだけの内容に変更されているので、クリストフも相変わらずアナをしょーもない奴としか思っていない描写になってしまっている。

アナを気遣って「なんかあった?」と声をかけているシーンが、アナを責めて(呆れて)「慌てるなって!」になっていて、真逆。

この直後、トロールたちに「クリストフは優しい良い男」なんて言われても、ちょっと説得力に掛ける。

こんなに大幅に変更せざるを得なかったところに、翻訳者の苦悩が伺えるし、映像作品の翻訳って本当に難しい作業なんだと感じる。

その文化圏でしか通じないことを他の文化圏に伝えようとしてて、更にいろんな制約のなかでそれをやらなくちゃいけないんだから、厳密に言えば不可能なことをやってのけてるんだよ。凄い。

このシーン、英語に明るい人ならこれだけの描写を盛り込んだまま、どう日本語に訳す?

こういうのちょっと自分でやってみると面白い。びっくりするぐらいダッッッッサイ吹き替えになったりして笑えるよ。




また、歌曲の方にもある。冒頭の方で流れる歌曲「生れてはじめて」でも、メロディが最高潮に達した時の決めの部分の歌詞が英語版と日本語版で違う。

日本語「開くのだ門を・・・今!

なんだけど、

英語「衛兵たちに開くよう伝えなさい・・・門を!

この「門」という言葉にいろいろ含まれている。門、扉、これを開くのはエルサにとってどれほど強烈な事か。だから、メロディが最高潮に達し音量もせり上がっていった時に、(開くのは・・・・・・・)『門!!!!』であると強調するのは、音楽の抑揚と歌詞の抑揚がぴったり合っていて強く心に響いてきて素晴らしい。

『門』と言うまでのタメの部分で、「何を開くの?門?門って言っちゃうの?言っちゃうの?」とドキドキさせる間の作り方も上手い。

それが「今」になってしまうと、ちょっと薄くなってしまう。って言っても、「もーんーーーーー!!」って叫ぶのも何か響きがダサい。「開くのよ今ー・・・・門をーーーーーー!!」が適当な気がするけど、口パクと合わないのかな?「もん」ってはっきり言わないで「もう」に近い発音にすればけっこう歌い回しで活きてくると思う。「もーぅおーーー!」って。

ちなみに、ブラジル版の『生れてはじめて』の同箇所はけっこうカッコイイ。

エルサは力強く唸り、アナは頭パッパラパーな様子が対照的によく表現されている。

『門を!』のところはブラジルポルトガル語でも『門』という言葉が使われている。

【o portão】発音だと「ウ・ポルタンォ」で、日本語耳で聞くと「うっぽるたーん!」って感じでちょっと可愛いんだけど、言ってることは「デカイ扉=門=ゲート」なので可愛くもなんともない。

「開くのだ門を・・・今!!!!」のところのポル語は、

Diga aos guardas para abrir・・・ o portão!!!!
(ジガ・アオス・ガーダス・パラ・アブリー・・・ウ・ポルターン!)




話は戻って、、、、メロディの呼吸と歌詞の呼吸(意味や単語の区切り)が合っていない時は、映像の口パクに合っていない言葉を当てはめた時と同じように、強烈に違和感を持つ。言葉と音の数が一致しているだけの状態。

他にもいろいろあって、特定の言葉がセリフと歌詞で共通してたり、物語で一貫して使うことで印象付けたり、それに加えてバックで流れる音楽でも言葉やシーンを想起させるようにリンクしていたりと、物語を通してとても手の込んだ事をしている大掛かりな仕掛けはけっこう崩壊してる。例えば、 conceal it とか don’t feel it とか do you wanna~ とかそういう大切な言葉たちがどっか行っちゃってる。「不可能」と割り切ってバッサリ切り捨ててるんだと思う。

あっちを立てればこっちが立たず、との戦いだったんだろうことが伺える。

でさ、こうやって「何か違う」って言うのは簡単で、嫌なものを嫌ってむずかるだけの赤ん坊と同じなんだけど、じゃあ自分がやるとしたらどうするかな?と考えてみると・・・やっぱ難しいんだよ。

以前、映画を買い付けてくる人に、「ブラジルで面白い映画があったけど、日本語に訳した時にその面白さが伝わりきらないから日本での配給はやめた」って言われたことがった。その文化圏でしか伝わらないニュアンスがあるから、それほどに訳す作業というのは気を遣うってことだろう。

この映画に組み込まれている大量の仕掛け、初見で全部気付けた人ってはたしてどれぐらいいるのかな?

僕は日本語版と英語版をそれぞれ1回観た段階では、とてもじゃないけど気付けなかったよ。だから何回も観てる。おかげで寝不足だよ。その都度、仕掛けの発見がある。「あーここ上手いことやってんなー!!スゲー!!」とか、観るたびに面白いよ。


日本語で観られるようにしてくれただけでも十分に、十二分に感謝。オブリガード!

翻訳/いづみつかさ

歌曲翻訳/高橋 知伽江(たかはし ちかえ)



アナと雪の女王を観たよ



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おまけ。

オオカミの群れに襲われるシーンで、アナが

「彼は運命の人なの!」パッカーン!

と女の子口調で可愛く叫びながらオオカミを楽器で殴るけど、英語版では、

「イッツ!トゥルゥゥ!ラァァァヴ!!」パッカーン!

というように、ダミ声になって叫びながら殴ってタイミングも良いから、オオカミが八つ当たりされている感が強く出ていて、襲った相手が口論の最中で殺気だっていたのは不運だったというオオカミにちょっと同情もできて何気に面白い。

こういうのはオリジナルの強みだと思う。

日本語版で観ていれば英語でも意味は分かるから、英語版も字幕を入れながらでも観てみるといいよ。おすすめ。


おまけ2。

同じく、オオカミの群れに襲われるシーンで、クリストフが

「黒コゲになるところだったぞ!!」

と言う声がドラゴンボールのベジータっぽくてちょっとクスッとくる。


おまけ3。

最後にアナがクリストフとキスする横顔が、幼少時代にドアの鍵穴に口を付けていた時と同じ顔をしていてとても可愛らしい。笑っちゃうところ。意図的に同じアングルにしてるんじゃないかな。面白い。


おまけ4。

オオカミの群れから逃げきってアナとクリストフが別れるところで、クリストフとスヴェンのやりとりのはるか後方でアナがウロウロしてるんだけど、この時のアナの声の距離感と音量とタイミングが絶妙。日本語版、英語版ともに。

後は、最後の吹雪の中でアナとクリストフが出会おうとする中で、耳元で「クリストフ…」とささやく声の入れ方が良い。パンを絞って物凄い近いささやき声に仕上げてあって埋め尽くす環境音の中で遠くない近くにいるかのような音作りで、リアリティが強く出て、切実な想い、願い、情景をよく表現していてこれもゾクッとくる。

こういう場合のありがちな音作りって、残響音をたっぷり掛けて脳内で響かすような手があるんだけど、おそらくそれをやったらチープ感全開でぶち壊しだったと思う。

楽曲もそうだけど、効果音なんかも含めて音が面白いから、ヘッドフォンで聴きながら観ると、今までは気づけなかった発見があるかもしれないよ。おすすめ。

面白いところ、こうやっていろいろ書くときりがないから、この前の記事でも途中でぶった切ってやめたのに、こうやってまた書いちゃうんだよ。もう最後。これでおしまい。

あーあと水、水の音がね・・・・あとけっこうリアルな音作りしているかと思えば、かなりサイバーな音色で構成されていたりと・・・・あー、うん。おしまいおしまい。



(追記)おまけ5。

「雪だるまつくろう」をギター1本で演奏した動画。



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