ブラジルの街中を歩いていると、必ずこんな声が耳に入ってくる。

ウンヘアーウ

もちろんブラジルポルトガル語。文字にすると

Um Real.

現地の通貨でR$1レアルという意味で、日本円で約\40円。つまり『1レアルくれ』と言っている。

物乞いだから、そこらじゅうのブラジル人が言っているわけじゃない。大抵はファベーラ（貧民街）の子供達。街中を歩く観光客に対して『ウンヘアーウ、ウンヘアーウ』と金をせびっている。

ただ、血眼になってこれをやっているかというと、そういう感じじゃない。日本人に例えると、軽く会釈するぐらいの手軽さ。観光客を見かけると脊髄反射的にやっている。片手間な感じだから、相手の方を見もしないで片手だけ差し出して『ウンヘアーウ』と一言だけ言って通り過ぎていく奴もいる。

いろんなタイプがいて、ガツガツしつこく来る奴もいれば、言葉少なくフニャフニャしながら甘えてくる奴もいる。

子供の場合は、単純に大人と遊びたいと思っていたり、甘えたいと思っていることもあるから、必要以上に警戒して乱暴に対応してはいけない。でも訳も無く甘い顔をするのもいけない。このへんは旅行じゃなく、現地で生活すると育ってくる感覚だから、観光で数ヶ月ちょこっと行く程度なら、しっかり見据えてきっぱりノーと言って後は無視。笑顔は見せない。これが無難で安全だし、他の観光客にも迷惑をかけずに済む。

ファベーラの子供達が『稼ぐぞ！』っていう時は、赤信号で止まっている車のウィンドウ掃除をやったり、その車の前でパフォーマンスをやったりしている。パフォーマンスは、ライムを使ってお手玉したり、二人の肩に乗ってお手玉したりといった感じのちょっとした芸。

子供に限らず大人も含めてこういう物乞いをする人たちは、実は一日にR$5レアルぐらい稼いでいるとネイティブの友人から聞いたことがある。それでR$1レアルで定食を食べられる安食堂へ行って、一日2食食べてもR$3レアル残る。万引きや引ったくりや強盗といった稼ぎ口を除いても、毎日貯金できる計算。『ウンヘアーウ』っていう弾は、残り数なんて気にすることはない。仕入れ値もタダ、無限。ターゲットはひっきりなしに現れる。リオ・デ・ジャネイロやバイーアのような世界的観光都市だからこそ可能な、まさに『数撃ちゃ当たる』物乞い手段。

本当に、金持ってそうな観光客を見つけると、ところ構わず言ってくる。『ウンヘアーウって言うと、ホントに金くれるぜ(笑)。試しにやってみなよ。』なんてノリが裏にあるのが見える気軽さ。

一度こんな事があった。

僕が横断歩道を渡っている最中に、対向して歩いてきたお婆さんが僕とすれ違った。すれ違って2メートルぐらい距離があいた所で、『あっ、ウンヘアーウ』って言って振り向いてきた。しかもちょっとニヤけてる。

『あっ』じゃねーよ！何かに気付いてんじゃねーよ！(笑)

というのは後から思って笑ってしまったことなんだけど、その時はそんな暇すらなかった。なぜなら、その直後に見知らぬ男にグイッと腕を捕まれたから。

歳は15歳ぐらいか、黒人の青年。全く知らない奴だ。彼が僕の腕を掴んでいる。同時に言ってきた内容にビックリした。

『おい、1レアルぐらい恵んでやれよ！』

と、『あっ、ウンヘアーウ』と僕を見て『珍獣を見つけたから記念に絡んでみた』って感じのお婆さんを指しながらそう言った。

絶対にイヤだ！！あんな態度のお婆さんに金めぐむ気になれない。

『ふざけんな！』って言ってその青年の腕を振り払って通り過ぎた。

その彼はいたって真面目に言っている。真剣だった。ブラジル人は日常的に本当によく他人を助ける。この時もきっとその流れだったのかもしれない。だけど、僕はこの時のこれは受け入れない。

特に現地に到着したばかりの旅行者は、いくら頑張って現地に慣れているフリをしても見破られる。はたから見るとピッカピカに輝いているし仕草が不自然だから、100メートル先からでも観光客だって見分けが付く。だから必然的に『ウンヘアーウ』を聞く機会が増える。そんな時はオロオロせず、ふと僕の記事を思い出して正しい行動を取ってくれると嬉しい。

ウンヘアーウ！

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