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ブラジルでの交渉術

 
2011-09-30 14:58 Good(4) Comments(0)
in Brazil - ブラジル, How to - ハウツー
ヤスとピポカとヴィオロン - Yasu, Pipoca e Violão

ブラジル人と接していると本当にとても感心することがある。それは頭の回転の速さ

目の前で起きた出来事に対して、今その場で自分がどういう行動をとるかの決定が速い。それがよく表れているのが会話で、相手が言ったことに対する返しが端的に的確。会話は日常的なもので、特にブラジル人は日本人とは比較にならないほど沢山の言葉を交わす。

会話をするということは、相手から毎回毎回違う新しい問題を出されているようなもの。それを四六時中解いている状態。こんな状況だから、それは頭の回転が速くなるのもうなずける。

実際にブラジルに住んでブラジル人と毎日毎日接していると、目が覚めるというか脳ミソが覚醒するというか、急に視力が良くなってバッと目の前が明瞭に開けるような感覚を覚える。

そういったブラジルの中では、日々至る所で交渉というものが発生している。誰でも簡単に体験できる町中での買い物や、何だか難しそうに見える文章を交えながらのいわゆるビジネスなど。

僕はどちらの交渉も体験した事があって、その中では基本的な部分はどちらもやっていること、やるべきことは同じだった。簡単な買い物を例にとってみると、僕は交渉の際にはこんなことをやっていた。


まず欲しい商品の相場を調べる。

これはいろんな店を見て回ればすぐに分かる。その店にしか無い物だったら、その店に置いてある他の商品の値段をみて、その店の値段のつけ方からクセを知る。『ちょっと高めに設定してるなー』とか『全然適正価格だ』とか。そこからおおよその相場を推測する。


相場が分かったら、最終的な落とし所を決めておく。

例えば相場がR$100レアルの商品だったら、R$90~R$110の範囲なら買う。それより高くなるようなら買わない。それより安くしようとは欲張らない。


落とし所を決めたらいざ出陣!(時代劇好きなんだ(笑))

予め交渉成立することが大前提となっている場合は別だけど、交渉決裂も全然起こりうる場合は、ファーストコンタクトの時に小芝居をする。

小芝居は自分の姿が相手の視界に入るところから始める。特に目的もなくウィンドウショッピングしてるかのようにフラフラゆっくり目に歩く。そうするとフェイラ(外の市場)なんかだと露店の人が声を掛けてくる。ちょっと通り過ぎるような仕草を見せつつ、『まあ、ちょっと見てみてもいいかな・・・』ぐらいの雰囲気で近づく。こうなれば接触の仕方は成功。

店舗やホテルのようなガッチリした建物の中のお店の場合は、自分から声を掛ける。でも、決して買いたいそぶりを見せない。もしくは、他にも候補があって天秤にかけているんだと相手に思わせる。

露骨に『他の店も見て選んでるんだ』って言うと、バレバレで笑われちゃうこともあるから(笑)、『探し物をしてる』程度の少ない言葉にとどめて置いて、『無ければ無いでいいんだ・・・』的な表情を作っておく。するとお店の人は『うちにあるよ。うちのを買っていきなよ』って感じになる。『本当にあるの?まあ、確認するだけならいいけど・・・』ぐらいの表情で商品を見せてもらう。ここでドンピシャな商品があったとしても喜びを表に出しちゃダメ(笑)。『うーん、ちょっと違うんだよなぁ・・・』ぐらいに顔を曇らせる。これで店舗での接触は成功。

店員に『交渉する価値がありそうだ』と思わせることが大事。

絶対に、買う気満々な顔をしたりそんな雰囲気を出して接触したらダメ。まず高めにふっかけられるから(笑)。その後値を下げるのが大変になる。スタートラインを最低でも対等、出来ればなるべく良い位置にするための小芝居。最初の接触はとても重要。

それから、やたらに笑顔を見せない。日本人が海外でトラブルに巻き込まれる原因の一つにこれがある。くれぐれも注意。


いきなり交渉!ではない。なるべく時間をかけて商品をチェックする。チェックするというのは、その商品の粗を探すということ。不良品でないことを確認する意味でもしっかりやる。

しっかりやるといっても、店員とチョロチョロ会話をしながらでもそんなに長い時間を掛けることは出来ないから、なるべく急いで見つけられるだけ見つける。数秒のこと。

この時見つけた粗は、交渉で後々使うために取っておく。気付いてもその場では言わない。


粗探しが終わったら、交渉開始!

交渉は持ちかけてきた方から値段を提示するもの。買い物の場合だと、殆どは売り手から提示することになる。

もし、相手(売り手)から値段を提示してきた場合は、まず相場との差を計算する。

例えば、相場がR$100レアルの商品で売り手がR$130レアルを提示してきたら、その差額はR$30レアル。

これを受けて、自分の切り札が何もなければ、つまり商品や売り手側に落ち度が一つもなかったら、交渉に使える切り札が無いということだから、差額のR$30レアルにR$20レアル足してR$50レアル安くしたR$50レアルを提示し返す。

足したR$20レアルとはどこから出てきたのか?

これは、売り手の方が売りたい意思が強い、買い手のこっちは買う意思が弱いという立場上有利な分。こういう事が出来るようになるから、最初の接触の時の小芝居は大事。

あとは、値段を提示しあう回数を考慮して、悪くても相場より安く買える値段で決着がつくようにしている分。

交渉の時に刻む値幅は商品の価格の大きさによって変わる。このR$100レアルの商品だと、R$10レアル刻みで値段を変化させて提示しあうことになる。R$30レアルの商品ならR$5刻みなど、だいたい感覚で。

この手の交渉は何十回も値段を摺り寄せあうわけじゃなく、せいぜい2,3回ずつ提示しあう程度のもの。だから、最初に売り手がR$130レアルと提示してきた時点で、R$10レアル刻みで交渉するんだなという事がわかる。そしてこちらがR$50レアルと提示し返したところで、もうR$90レアル付近で決着することはほぼ確定している。売り手もそれを分かっている。

売:R$130 買:R$50

売:R$120 買:R$60

売:R$110 買:R$70

売:R$100 買:R$80

売:・・・

ここで売り手が『まあ、R$80でもいいか』と思えばR$80レアルで決着。でも最後に売り手が『R$90』と提示してきたら、もうそこで手を打つ。

相場R$100レアルの商品を、良くてR$80レアル、悪くてもR$90レアルで買うことが出来た。これで交渉成立にする。相手を苦しめることが目的じゃない。こういう感じだと、お互い気持ちよく終われる。


しかし、最初の商品チェックで商品自体に欠陥があったり、売り手側に何らかの落ち度(弱み)があったら、もっとガツンと下げていく。

それは当然の話。相場っていうのはその商品が健全な状態であった場合の値段だから、そうじゃない商品だったらそれ相応に値段を低く考える。

キズや歪みなど、『この程度なら言うほどのことでもない』と勝手に思い込まずに、どんな些細なことでも自分の手札になるから細かくチェックしておく。

こっちと同じように、売り手側も何らかの切り札を持っていることがある。高く買う価値がある商品なんだという札を切ってくる。それを上手くかわすことも必要。自分の切り札で相手の切り札を消す、という感じで考えている。

ブラジルでボッタくられた時の話にも書いた通り、交渉では萎えたら負け、つまり黙ったら負けということ。条件を提示し合う時に、言葉に詰まらないように出来るだけ沢山ストックしておく。

自分の手札を持っている場合は、いつでも出せるように会話の流れをよく捉えておく。交渉に入る前に切って、売り手の一発目の提示額を下げさせることもあるし、途中で切ってR$10レアル刻みの所をR$20やR$30ぐらい一気に削らせることもある。最後にお互い譲れない状態になったときに決定打として切ることもある。

この交渉の例の場合だと、最後に売り手がR$90レアルを提示してきたところで、こっちが切り札をだして再度R$80レアルで手を打つことを持ちかければそれで成立させられもする。

何も切り札が無い状態で再度同じ金額を提示することはしない。それは訳も無くただただ絶対に譲らない、絶対に相手の要望を聞かないという失礼な態度だから、それでは交渉にならない。そこで交渉決裂してしまう。

僕の交渉の体験からして、最初になるべく下げた金額を提示させた方が、後々楽。高い金額から始まってしまうと、それを下げさせるのはとても難しい。


切り札を切るといってもどんな言い方をしても良いわけじゃない。『お前が悪い、お前の商品が悪い』などと相手を責める言い方はしない。そうじゃなくて、『それでは自分が困ってしまう。満足できない。納得できない。』という言い方をする。自分の気持ちを相手に伝える言い方が上手くいく。

ただ、広いブラジル、地域や人によってもいろいろ変わるから、その状況で上手く出来るようになることが望ましい。例えばバイーアのワイルドな交渉だと汚い言葉が普通に飛び交うけど、リオやパラナーではそれだと怒りを買うし相手にされなくなる。ちゃんと望みの商品を買えるように場所をわきまえる必要がある。


ちょっと気付き難いことかもしれないけど、こんなことも切り札になる。

商品を複数買う、ということ。

一つの店に買いたい商品が複数あった場合、まずは一個だけ買うという前提で交渉を始める。その途中で、値段を下げられそうになかったら、『こっちの商品も一緒に買うから○○レアルで売ってくれる?』などと持ちかける。割と得できる事がある。

本当はそもそも両方欲しいんだけど(笑)、こうやって分けて攻めて最終的に両方得るのも一つの手。

最初からあれもこれもと複数商品を指定すると、買う気満々じゃんって受け取られることもあるから、そうなると不利。

ただ、ノリノリになるとサービスしてくれたりもするから、一概にこうだ!とは言えない。

だから交渉も一つのコミュニケーションとして楽しむ気構えを持っている。


意外にも、ブラジルでは値段の交渉ができる場所はフェイラのような市場や小さな小売店だけじゃない。十階以上はある大きめのホテルでも値段交渉はできる。


メルカドモデーロ - Mercado Modelo


交渉において混同しちゃいけないことがある。それは懇願。

交渉と懇願は全くの別物。理由も無くただただ『まけてよ、まけてよ、お願い、お願い!』といい続ける態度は良くない。これは物乞いがすること。とてもみっともない。

『まけてよ!まけてよ!』って日本では普通に見かける客側の態度なんだけど、僕の目には服を着て靴も履いていて明らかに最低限のお金は持っている人が物乞いをしているように映っている。とってもおかしい。

こういう態度は交渉ではない。

女の子が冗談で色目を使ってるフリして『サービスしてよぉ~』って甘えてるのは洒落っ気があって面白くてその場も笑いが起きるけど(笑)。


ビジネスでの交渉について。

最初に書いたとおり僕が知る中では基本的には交渉はどれも同じ。ただ、ビジネスの場合、一つでも納得できない、又は正しく理解できない条件が記載されていたら、絶対にサインしちゃダメ。無理矢理にでも打ち切って一旦持ち帰ることが大切。

どんなに言語に長けた人でも母国語意外の言語をネイティブと同じように理解するのは不可能なことだから、契約書は必ず複数人でチェックして確認することが望ましい。自分だけが思い違いをしていた言い回しなんかが入っていると大変だから。

実際僕も音楽関係の契約の時には、その場でサインするように勧められたけどそれは断って一旦持ち帰った。そして自分で内容を確認し、同時にプロの通訳にも確認してもらって行動を決めた。

基本的に自分に都合の良い条件を提示してくるのが当たり前だから、とても呑めない条件が普通に書かれていたりする。

サインするものっていうのは相手がうんざりするぐらい注意に注意を重ねる必要がある。



最後に、僕なりのブラジルでの交渉術を書いてきたけど、なんでもかんでも値下げ値下げで交渉しているわけじゃない。

長く同じところで買い物をしていれば、たまにオマケしてくれたり安くしてくれたりなんてことが起きる。お互い笑顔になれて生活が楽しくなる。

僕は交渉というものを人と人とのコミュニケーションの一環ととらえている。潰し合いのケンカじゃないし、信頼関係だったり、アジア人の評判だったり、そういったことにも影響してくる。

また、ブラジルには日本とは比較にならないほど貧困に苦しんでいる人が沢山居る。『今日のご飯はどうしよう?』、『明日のご飯は・・・?』という人が当たり前に居る。

こういう境遇の人たちに対して上に書いたような交渉はいきすぎなこともある。

僕は適正価格の範囲内で彼らの言い値で買うこともある。しかも特に欲しくはない物を。バカな行為ととらえる人もいるかもしれないけど、これは僕に出来るせいいっぱいの寄付。

そのまま恵んだらいいんじゃない?と思うかもしれないけど、それはやらない。それはタカられるリスクがあるし、『アジア人なら何もしないでも金をくれる』と認識されてしまうと他のアジア人に迷惑が掛かるし、ただ金をくれ!と手を出してきた相手にそのまま上げるのは、その人のためにならない。自分で何かをして、それによって得られたお金だ、という形にしたい。

とはいえ、こんなこと言っても毎回必ずというわけじゃない。交渉する場合もあるし、無視する場合もある。状況による。例えば近くで同じような貧困の人たちがそれを見ていたら、自分の身の危険に繋がることも考えられるから無視するし、カモだと思わせてもいけないから交渉することもある。いろいろ。

だから、僕は会話を楽しむことと言葉を勉強することを目的として交渉をしている。

ブラジルへ旅行に行った際には、損得をあまり意識せず、旅行先でのイベントの一環として市場なんかで交渉してみるのも楽しいかもしれない。『お願い!』はダメだよ(笑)。



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